質の高いコーヒー豆を輸入するお仕事って?

「スペシャルティコーヒー」を切り拓いてきた、生豆の専門商社「ワタル」のこと

現地で優良な生豆を見極めて買い付け、最善の状態で保管し、味わいやストーリーを最大限に伝える。生豆の専門商社「ワタル」は、「スペシャルティコーヒー」という言葉すら浸透していなかった約20年前から、トップオブトップの豆を追いかけてきた。そして今や、日本一のスペシャルティコーヒーの輸入量を誇る。スペシャルティコーヒーを取り巻く状況の過渡期に最前線に立ってきた、同社コーヒー部の松元啓太(まつもとけいた)さんと正能光慶(しょうのうみつのり)さんに、その移り変わりと仕事のやりがいを語ってもらった。

スペシャルティコーヒーとは、どんなコーヒー?

東京・新橋にあるワタル株式会社本社。コーヒー部所属のお二人を訪ねた。

――生豆の専門商社「ワタル」において、コーヒー部所属のお二人はどんなお仕事をされているのでしょうか?

松元 私どものお客様は、規模の違いはあっても焙煎を手掛ける方々です。産地に赴いて生豆の仕入れ、国内外への販売を行っています。

正能 スペシャルティコーヒーに関しては、産地は今のところ国外が100%。買い付けの際の品質チェック、カッピングの能力、豆の魅力を伝えることも大事です。生産者とお客様の架け橋となる仕事です。

ワタル株式会社コーヒー部の松元啓太さん(写真左)と、正能光慶さん(写真右)。松元さんは、コーヒー生産国であるコスタリカ、グアテマラの駐在歴があり、世界最高の農園のひとつ「エルインヘルト農園」をはじめ、数々の優良な農園を発掘してきた。正能さんも幾度となく現地へ足を運び、顧客に農園の案内をしている。

――スペシャルティコーヒーとはどんなコーヒーなのでしょう?

松元 純粋に飲んでおいしいことが一番で、「ワタル」では「土地の気候、土壌、人の3要素によって構成されるテロワール、マイクロクライメット(微小気候)を表現し、魅力のある風味特性を持つコーヒー」と定義しています。品質基準は「カップオブエクセレンス(※)」におけるカッピングプロトコル(※)に基づき、無欠点かつクリーンカップ(※)であることが前提です。

正能 さらに、自社「ワタル」でのカッピングにおいて収穫後6カ月以内の検体の各項目の総和が80点以上と認められること。生産から精製、流通まで一貫したトレーサビリティー(※)が明確であること。自然環境を尊重し、人道的な取り組みによって生産されること。標準的なコーヒーと一線を画し、品質に対するプレミアム(※)が支払われて取引されること……といったことが挙げられます。

(※カップオブエクセレンス)生産国ごとに非常に厳しい審査会を経て、その年に生産された最高品質のコーヒーに対して与えられる称号。
(※カッピングプロトコル)コーヒーの品質検査を行う上での世界的に統一された手順。
(※クリーンカップ)コーヒーの風味の透明度。風味を阻害する瑕疵がないこと。
(※トレーサビリティー)農園主、農園区画から輸出入業者等コーヒーに関わった箇所が追跡できる事。
(※プレミアム)ここでは品質に相当する対価。

「ワタル」で扱う、上質な生豆。瑞々しく、青みがかっているのが特長。栽培環境から精製方法までの工程説明もきちんとなされる。

「ワタル」は、黎明期から現地の農園を訪ね、最前線で優良な生産者を発掘してきた。

――日本最大手となる「ワタル」が、スペシャルティコーヒーを扱い始めたきっかけは?

松元 まだ「スペシャルティコーヒー」という言葉すら浸透していない、2000年頃だったでしょうか。インターネットオークションが始まり、産地と直接取引する「フェアトレード」を始めるお客様が現れました。そこに着目し、質のいいコーヒー豆を産地から直接仕入れる取り組みを強化していきました。私といえば、当時はちょうどコスタリカやグアテマラに駐在していたました。現地でカッピングのスキルを磨きながら、生産者たちの輸出の契約のサポートをすると同時に、周辺生産国を周っていろんな農園を訪問していましたね。

正能 その頃からだんだんと産地で行われている品評会(インターネットオークション)に、審査員として私たち「ワタル」の社員が呼ばれるようになっていきました。そこで出会った優良な生産者たちと直接取引するようになり、仕入れ先がどんどん広がっていったのです。

――2000年頃は、業界でもまだスペシャルティコーヒーが浸透していなかったのですね?

正能 はい。というのも、収穫された豆は、産地で一カ所にまとめて混合して出荷されていたのです。すばらしい豆もよくない豆も混ざってしまい、生産者ごとの識別ができない状態でした。だから、生産者自身も「カッピングってなんだ?」という状況で、自分の豆が評価されて売り値に反映する、という感覚がない時代だったのです。

松元 ところが2000年頃になると、「プレミアムコーヒー」を打ち出すアメリカの「スターバックス」が中南米に豆の買い付けにやってきます。そこから市場価格も生産者の意識も大きく変わってきました。

――スペシャルティコーヒーの過渡期といえますね。

松元 私は現地の最前線で、まさにその過渡期に直面していました。当時、産地側がみていたのは、中南米の買い付けの最盛期を迎えていた「スターバックス」でした。彼らは自分たちの認証をつくり、農業センターを立ち上げて指導をしながら、「スターバックス」クオリティをつくっていき、世界的に店舗を展開していった時期です。いい農園にはすでに「スターバックス」が入っていて、なかなか買い付けができなかったこともありました。

――なぜそんな動きが出てきたのでしょう?

松元 「ニューヨークシー」という国際相場の市場価格が最低の時期だったのです。生産者はせっかくつくっても安い価格で売られてしまい、農地は住宅地にした方がいいという状態でコーヒー畑がどんどん減っていました。でも「スターバックス」の参入で価格に変化が出て、生産者の意識も変わってきたと言えます。

――いい農園は取り合いになりそうですね。

松元 ええ。各農園を周り、「あなたの豆を買わせてください」と想いを伝えて仕入れ先を増やしていきました。同じ農園の毎年買い続けるという地道な関係づくりが必要です。

正能 先の話のとおり、以前は産地ごとに豆はすべて混合されていたので、生産者は自分のコーヒーがどう評価されているのかわかっていませんでした。いい豆をつくれば評価される、よい生産者にはあなたの豆は価値がある、と伝えるところからのスタートでした。実は松元さんは、「スターカッパー(生産国の発展・開発プログラム)」という資格を取った日本人第一号でもあります。スペイン語で一緒に授業を受けて勉強した産地の仲間が、20年経ったいまは農園主になっていたりして。長い付き合いが仕事にも生きています。世界最高の農園のひとつ「エルインヘルト農園」をはじめ、彼が見つけてきた農園はたくさんあります。

情報のない時代から農園の開拓を続け、今では20カ国、200種!トップオブトップの生豆を扱う日本一の専門商社。

――スペシャルティコーヒーの輸入量日本一の「ワタル」で扱っている豆はどのくらいあるのでしょう?

正能 直輸入で扱っている豆は、20カ国、200種類ほどに上ります。トップオブトップの豆を扱っているといえるでしょう。

松元 「カップオブエクセレンス」や「ベストオブパナマ」をはじめ、農園のプライベートオークションなどにおける輸入実績は、国内外含め全体の約5割のシェアを「ワタル」グループが占めています。

――圧倒的なシェアですね。情報のない20年前からどうやってここまで広げられたのでしょうか?

松元 今は情報があふれ、お客様がかなり細かい銘柄まで指定されることも増えました。スペシャルティコーヒーが増え、広く普及したことを感じます。当時は、従来いいコーヒーが取れる標高や産地のゾーンに赴き、輸出業者などいろんな人と一緒に多くの農園を回りましたね。コーヒー畑を見て、サンプルを持ち帰ってカップしていくうちに、農園を比べる基準が自分のなかにできてくるのです。ちゃんと手入れしている畑とそうでない畑も見ればわかります。まさに実体験型でいまと全然違いますね。徐々に農園主も自分のコーヒーがいくらで売れる、とわかってきて、交渉を重ねていきました。

――生産者との意見交換で生まれたプロセスはありますか?

正能 基本的には産地からの提案がほとんどです。最近では「嫌気性(けんきせい)発酵(はっこう)」(アナエロビック)という精製処理を取り入れる生産者が出てきました。空気に触れさせないとメタンガスが溜まり、圧力がかかることで味の浸透をよくするという効果が期待できます。こうして精製された豆は甘味が豊かで、「ハニーコーヒー」とも呼ばれています。

「ワタル」の社内にあるテストルーム。コロナ以前は、ここで定期的に外部のお客を招いてカッピングが行われていた。

やりがいは、買い付けた生豆のストーリーを語り、味わいの魅力を伝えること。

――この仕事の難しさはどんな点にありますか?

正能 農産物なので、必ずしも毎年同じクオリティにはなりません。でも収穫前にオーダーはしている。生産者との信頼関係が大事になってきます。また、港に着く前に「コンテナに穴が開いていた」なんて情報が入ったときは緊張が走りますね。カビの発生の心配やコンテナの中で箱がクラッシュしてしまうケースもあります。現地でちゃんと取り組んでいても、航海の最中の事故もありえます。これは神に祈るのみですが、なにしろ生産から流通までのトレーサビリティが大事です。

――では、やりがいとは?

正能 やはり、自分たちが選んできたコーヒーをお客様にカッピングしていただいたときに喜ばれ、売り切れるぐらいまで好評だったときですね。毎月、コロナ対策をしながら限られた人数でカッピング会を行っています。味だけでなく、適した飲み方の提案や農園のヒストリーを伝える際に、現地に駐在員がいることも強みになっています。コーヒー業界で、なかなかこの状況下でも駐在員を置いている会社は少ないと思います。

松元 買い付けた豆が、お客様のお店の棚に並んでいたり、ネットショッピングサイトで高評価で紹介されているのを見ると、うれしくなりますね。生産者にこんな風に売られているんだよ、と伝えたくなります。生産者が来日した際には自身の豆を扱っているお店に連れて行くと大変喜ばれますし、逆に産地に行くときのお土産に、日本で売られている製品を持っていくと感激されます。

正能 気候変動のために、2050年にコーヒーの収穫量が半分まで落ち込むと危惧されています。我々の力だけじゃどうにもできないことですが、いつまでたってもコーヒーが穫れる環境があってほしいと思います。コーヒーに生かしてもらってきましたし、私の血の半分はコーヒーでできています。(笑)

松元 私も口がさみしくなったらコーヒー。1日10杯ぐらいは飲みます。産地に行くと1日40〜50種もカッピングをし過ぎて眠れなくなるときもあります。そんな夜は生産者と一緒にお酒を飲んだり、ね。生活の中においしいコーヒーがあること。それが永続的に続くことを祈っています。

▼会社データ
ワタル株式会社
【東京本社】東京都港区西新橋2-11-9
03-3503-8351
URL:https://wataru.co.jp/

▼クレジット
写真:Sonia Cao 文:沼 由美子